備忘録(仮のような正式タイトルのような

基本放置の備忘録。2013年2月25日開設。Twitterもやっています。@tatibana_m

「今だから語ろう! Vガンダムの面白さを」(アニメディア94年5月号より)

アニメディア』94年5月号で「今だから語ろう! Vガンダムの面白さを」という企画をやっていて、その内容が庵野秀明さんと幾原邦彦さんが『Vガンダム』の魅力を語るというなかなか魅力的なものだったので、備忘録代わりに一部抜粋します。

 


庵野秀明さん
僕が『Vガンダム』でいいなと思ったのはワタリー・ギラ大尉がウッソに言う「こんなことをしていると、みんなおかしくなる。そうなる前にMSを降りたほうがいい」というセリフを聞いてからです。そのセリフが暗に意味することを感じたときからですね。

カテジナさんには始めから興味がありました。ああいうキャラって富野さんの作品には必ず登場してきて、僕は好きなんですが、理想を振りかざして、それを達成する才能もないのに口だけは言ってしまって。結局みんなを振り回してひどい目に遭わせるバカ女ですね(笑 カテジナさんが出てきたときにはこれはグー!だなと(笑

Vガンダム』に登場する女性たちって、みんなウッソの母親になろうとしていたと思うんです。みんな母性の象徴のようなキャラだった。その母性にはふたつの側面があると思う。まず絶対的な愛で、男に逃げ場所を作って包んでくれる面。それは同時に男にしがみつき、束縛し、呑み込んでしまうエゴな面でもあると。

母親が母親であり続けるためには、その相補的アイデンティティとしての「子」が必要なんです。(略)自分の母性というものを保護するためには子どもを作らなくてはならない。『Vガンダム』って、そこから外に出ようとするウッソという少年の物語だったと思います。

(略)カテジナさんはウッソの母親になりたくなかった。ウッソという「息子」は重荷だったんだと思います。そのなかで、ウッソは父性にこだわっていますよね。あなた方の子どもになんかなりたくない、束縛されたくないと。

ウッソは富野さんの理想ですよね、こうありたいという。それが(現実に対する)絶望から出ているところがいいと思うんです。「〜たい」であって「〜なのだ」ではないんです。富野さんの話って「こうありたい」「人を信じたい」なんです。だから基本的には人を信じていないのではないか。その絶望度がものすごく強いので、逆に人を信じようと思い込まないと生きていけない。

ウッソは最後までカテジナさんを信じていたかった。そういうキャラにウッソ、つまり「嘘」というネーミングをしてしまう、そんな絶望感が富野さんのそこ(底?記事ではひらがな)に流れていて、それが凄く好きなんです。なにか凄く乾いていて……。

それが富野さん自身のどこから来ているかはわからないのですが、富野さんの私小説的なところから来ているのは確かだと思うんです。先ほど話したワタリー・ギラのセリフの話などは、富野さんの置かれているアニメ制作の現場に対する声だと思います。僕から見ると『Vガンダム』のキャラクターたちは、みんなアニメ関係者か、アニメファンに見えてしまうんですが……(以下略)

 

幾原邦彦さん
まず『ヴィクトリー』というタイトルと、そして主題歌を耳にしたときに、富野さんのこの作品に対するスタンスというか、覚悟を強く感じましたね。

富野さんというと、あれだけ多くの作品を手がけ、そして業界でトップを走り続けてきた方ですよね。その、クリエイターとしてはすでにかなりの高みに達した方が、今までのガンダムをチャラにして新たに"ヴィトクリー"という名のガンダムを作ろうとしていることに驚きました。

"ヴィクトリー"つまり「勝つ」ということにキーワードを設定したところに、富野さんの力強い意志を感じたのです。

僕自身が今アニメを作る立場に身を置いてみて、この業界に感じるのは、業界全体が長く暗いトンネルに入っちゃったようなムードなんです。(略)たぶん富野さんが最初の『ガンダム』を作られたとき、十数年前からあったものなのでしょう。
富野さんはおそらく誰よりも強くそのトンネルの暗さを感じていて、それを打破すべく最初の『ガンダム』を作られた。そして今回の『ガンダム』でもそのスタンスは変わりなく、いや、これまで以上に強く昇華されていて、それが『ヴィクトリー』というタイトルに結実した。そう感じました。

(略)クリエイターとして、富野さんに対するあこがれは、今もありますね。(略)富野さんは僕にとって、アニメーションもディレクターという立場の人がフィルムを作っているんだということを認識させてくれた最初の人ですね。メディアに対する接し方も含めてね。僕も富野さんがいなかったらこの業界に入っていなかったかもしれない、と思います。(略)最後に、作品への個人的な感想を言わせてもらえれば、あのクジラの話は良かったなあ……あと、オデロには生き残ってほしかった(笑