『君のクイズ』(小川哲)
英語のタイトルが「YOUR OWN QUIZ」と「OWN」を入れているのに、(読了後だと)センスを感じますね。
とあるTVのクイズ大会で、ライバルが「問題。」と問題文を一言も読まれていない時点で正解を出す「0文字押し」で優勝してしまう。
他の参加者たちがヤラセだと憤る中、主人公は別のことに意識を割かれていた。
(答えを知っていたとしても、もっと的確なタイミングで答えることができたはず。なぜ「0文字押し」なんていう、無意味に近い答え方をやったのか——?)
主人公は大会を振り返り、その中で
「なぜ正解を出せたのか」「どうしてこのタイミングで早押しできたのか」「この誤答が生まれた理由は?」といった技術論が語られつつ、
「クイズプレイヤーが絞り出せる答えは、そのプレイヤーが歩んできた人生の1ページである」ことが示されていく。
それはやがて、対戦相手の人生へ歩み寄ることにもつながり……
読み終えた時の感想は「スラムドック・ミリオネア」的な作品なのかなあ、と。
最近めっきりクイズ動画にハマりきっていることもあり、期待値が高かったけれど、思っていた構成とはちょっと異なっていて、その点ではやや肩透かし感があり。
(オセロのように、新たな情報が出ることで、それまで正しいと思っていた推測が裏返り、また次の情報でさらに裏に、みたいなミステリものを予想していた)
一方で、クイズプレイヤーたちのクイズ中の思考などが共有できるのが、この本の強みですね。クイズへの取り組みがただ知識の詰め込みではないことも示されていて、なるほどこれはクイズプレイヤーたちの共感を呼ぶわけだなと。
技術論部分は、伊沢さんの著書やQuizKnock&カプリティオチャンネルなどでよく語られている話がメイン。
(参考文献にも挙げられていますしね)
最近クイズにハマり始めた、という人は、これを読むとクイズ番組の見方が変わるかも。
めちゃくちゃ面白かった、万人におすすめとまではいかないですが、久々に新しい著者を開拓できて有意義な1冊となりました。